No.81

戦争遺産トーチカを守る

小さな防御要塞トーチカが今も残る山がある。
戦争の負の遺産は、ここでこれからもずっと、
忘れてはならない時代を雄弁に語り続ける。

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差波紀一
取材・文 三浦穂乃佳

 「トーチカ」を知っているだろうか。トーチカとは、コンクリートなどで作った戦地に点在するごく小さな要塞である。八戸にも、米軍との本土決戦に備え作られたトーチカがある場所が残っている。
 私はそのトーチカを見るために是川地区の差波紀一さんを訪ねた。差波さんが所有する山にはトーチカが3つあった。私は一度も防空壕や要塞を見たことがなかったため、トーチカとはどんなものなのか全く想像がつかなかった。
 山を登り始めると、道のりは急で険しかった。一つ目のトーチカに着くまでに30分以上歩いた。それだけで私は疲れてしまったが差波さんは何と2時間以上かけて毎日全てのトーチカを見て回るという。
 個人の土地なのだが、差波さんは多くの人にトーチカのことを知ってほしいと考えている。「ご要望があればトーチカにご案内したい。」と語っていた。
 地内にはトーチカについての解説看板まで立て、取材には積極的に協力している。トーチカにまつわる戦争の爪跡を多くの人に伝え、この遺産を残したいと切に願っておられる。先代から受け継いだこれらのトーチカを戦争の記録として風化させたくないという思いがそこにはある。
 また、トーチカの保存はそれだけではない。ある日、差波さんがいつものように散歩がてらトーチカに異常がないか点検のために歩いていた時のことだ。なんとトーチカの中にコウモリが住み着いているではないか。後日、「コウモリの保護を考える会」の方がその現場にいらっしゃって話をきくと、そのコウモリの中には絶滅危惧種に指定されている種類もあることが分かった。差波さんはコウモリをはじめとするこの山を住みかとしている動物や自然を保護したいという考えを持っているそうだ。
 また、差波さんは山の間伐材を使って小屋をいくつか建てている。そこからは、壮大な階上岳が見え、差波さんは小屋から山を眺めて優雅なひとときを過ごしている。その小屋の中にはトーチカに関する新聞記事や資料などが整理されてずらりと並んでいる。よくそこでトーチカについての勉強会を開いたりしている。
 山をちょうど良い状態に保つための木の伐採をはじめ、自然保護に対する優しさ、毎日の散歩、トーチカに関する記事の切り抜きやご案内、小屋を建てた想い、その全てに差波さんの愛情と守り伝えることへの責任感を私は感じた。差波さんは今日もいきいきと里山を登っていることだろう。

取材に応えてくれた方

差波紀一(さしなみきいち)/プロフィール
1944年合併前の是川村に生まれる。高校卒業後就職で上京。余暇には週末に登山三昧。1967年帰八転職。52歳早期退職後自給自足の合間に山歩き、陶芸、彫刻と楽しみいっぱい。人生後半が面白い。これから・・・。

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取材と文

三浦穂乃佳(みうらほのか)/プロフィール
八戸高校一年生。バドミントン部に所属しています。毎日学校で、友達と休み時間に話をするのが大好きです。私の尊敬する人はソフトバンクホークスの松田選手で、真っ直ぐに生きている姿が大好きです。私もそんな人になりたくて日々精進しています。


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