No.27

「八皿」が育む地域の絆

8つの皿に甘酒を注ぎ無病息災を祈る。
親戚一同が会して楽しく行われる風習はいま、
地域の人々が集う場として受け継がれている。

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前田巌
取材・文 松原情音

 私が「八皿」のことについて調べようと思った理由は、私が暮らしている田面木という地域で行われていると知ったからだ。「八皿」というのは、暦2月8日に行われていた「トマドフタゲ」(戸窓をふさぐこと)と呼ばれる魔除け行事である。その由来について2つの説があるが、田面木では「八峡大蛇をスサノオノミコトが退治し、三種の神器の一つであるアメノムラクモノツルギにまつわる神話」に基づくものと伝わったといわれている。
 「八皿」のやり方は、お膳に8つの朱塗りの皿、中央に五器椀と呼ばれる漆塗りの浅いお椀を並べ、東の方角の朱塗りの皿から8つの皿に順番に、時計回りに甘酒が入った容器から注ぎ込む。その際、一気に8つの皿に甘酒をお膳の上から3回容器を回すようにして注ぐ。次に、8つの皿の中の甘酒を中央の椀にすべて注ぎ込む。そして、皿からこぼれてお膳に残った甘酒をお膳ごと外に運び、玄関や窓に撒きかけた。8つの皿には今は甘酒を入れているが、昔はドブロクという日本酒の原型のお酒を注いでいた。「八皿」の中のお酒を飲むと、大蛇やその他の魔物の血が下がると言われ、お酒の他にもこの日ふるまわれるごちそうを食べ、そこにいる人たち全員で楽しみ、無病息災を祈ったそうだ。
 そんな「八皿」を20代の時まで実際に行っていたという前田巖さんに話をうかがった。私は前田さんのお話を聞いて「八皿」についてのイメージが180度変わった。まず一つ目は、「八皿」を行う環境についてである。お話を聞く前は5、6人で行うものだと想像していたが、実際には親戚一同が全員集まって行うものだとわかった。その場にいるほとんどの方が「八皿」で魔除けを行い、大勢で無病息災を祈るという。二つ目は、「八皿」を行う雰囲気である。「八峡大蛇」や「魔除け」という言葉から、勝手に静かで重苦しい雰囲気で行われると想像していた。しかし、前田さんは「そんなことない。みんな楽しみにして来るんだよ。」と笑いながらおっしゃっていて、とても驚いた。2人ずつ「八皿」のお酒を飲むのだが、自分の番が来るまでは、みなさんで談笑しながら「早く自分の番が来ないかな。」と待ち遠しく思うそうだ。とても楽しそうな雰囲気が、前田さんの笑顔と力強くも優しい話し方から伝わってきた。
 前田さんのお話を聞いてから「八皿」はとてもすてきな行事なんだと思った。いろんな人が楽しめて、行われる日を心待ちにしている行事はとても素晴らしいと思う。しかし、今は家で行っている人はほとんどいないそうだ。それで、その伝統を絶やさないように「八皿」は毎年、田面木公民館で行われている。私たちのおじいちゃんやおばあちゃんが、私たち高校生世代と同じ歳かもっと前から行っていた行事を楽しみながら体験できることは貴重だ。「八皿」という行事を多くの方にもっと知ってほしいし、大切にしたいと思った。

取材に応えてくれた方

前田巌(まえだいわお)/プロフィール
1930年田面木で生まれ育ち、国鉄に約40年勤務していた。退職後は趣味のグランドゴルフを仲間と週2回楽しんでいる。小さい頃から20歳くらいまで、実家で八皿の行事を行っていた。公民館の八皿行事は今年で20回目で、地域の方々と伝統を守り続けている。

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取材と文

松原情音(まつばらもとね)/プロフィール
八戸東高等学校1年生。ソフトボール部に所属。八戸市田面木地区に住んでいる。7人姉弟の6番目。自分が住んでいる田面木でこんなめずらしい行事があると知って驚いた。中学校からソフトボールをやっていて、中学生のときはショート、今はライトを守っている。


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