No.26

青い目の人形「メリーちゃん」の奇蹟

アメリカから贈られた青い目の人形は、
天井裏で人知れず平和な時代が来るのを待っていた。
不思議な縁に二度救われた「メリーちゃん」の物語。

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中尻貴之
取材・文 慶長洋子

 現在、八戸市南郷歴史民俗資料館に保存されている青い目の人形「メリーちゃん」は、島守小学校に贈られた人形で、県南地域では唯一である。「メリーちゃん」に関する記事が、「デーリー東北(1997年3月16日付)」に掲載された。

 戦後まもなくのことである。松坂武寿さんが島守小学校のPTA会長の時に、自分が小学校3年の時に贈られてきた、思い出深い人形のことをふと思い出した。「心ある人がきっとどこかに隠している」そう考えた松坂さんは、教頭らと人形がどこかにあることを信じて探した。松坂さんらの必死の捜索により1958年、同小裁縫室の天井裏から布に包まれた状態で発見された。
 やっと見つかった「メリーちゃん」だが、またしても1967年の学校火災に見舞われた。火災の後、松坂さんは、またもどこかに生き残っているのではないかと「メリーちゃん」を必死で探した。消火水で汚れた「メリーちゃん」を松坂さんはまたも救い出した。あわや火事の後始末でほかのごみと燃やされそうになっていた「メリーちゃん」は九死に一生を得たのである。「火に投げ入れる寸前で間一髪だったんです。あと数秒遅れていたら焼かれていたかもしれません。」「メリーちゃん」は松坂さんに2度救われ、奇蹟的にも生き残ったのである。

 1927年1月、米国のギューリック博士の呼びかけで「世界児童親善会」から1万2000体余の少女人形が贈られた。「友情の人形使節」の名の通り、一体一体に米国の子供たちの日米親善の願いが込められたメッセージと、パスポート、ビザ、着替えなどが添えられていた。
 日本でも、「日本国際児童親善会」を作り受け入れた。親善の人形達は、全国の幼稚園・小学校に贈られることになり、日本の「ひな祭り」に間に合うように、人形の第一陣が横浜港に到着した。その後も数回船で運ばれ、合計1万2000体余の人形が日本へ来たのである。八戸にも6月ごろ届き、小学校・幼稚園に18体の人形が贈られた。
 日本ではその御礼として、人形が贈られた学校の女子児童から一銭ずつ募金をしてもらい、日本人形をつくり、アメリカに贈った。
 青い目の人形は、寝かすと目をつぶり、起こすと「ママー」と声を出し、子供たちに愛されて大事にされ、戦前の日米交流の象徴だった。
 しかし、1941年に開戦した太平洋戦争で、日本とアメリカが敵国になり、「青い目の人形」は「敵国の人形」とされた。「青い目をした人形」は憎い敵と見なされ、皆の前で踏んで壊されたり、顔や手を引きちぎられたり、火の中に投げ込まれたり、はりつけにされた。
 1945年8月15日、日本の降伏で太平洋戦争が終わった。残った人形は全国で約300体だった。
 
 1997年は、「メリーちゃん」が日本に贈られて70年目であった。その存在を知る数少ない有志らの間で、「70周年を記念して『メリーちゃん』に故国のジャズを聴かせたい」との機運が盛り上がり、南郷村も検討を始めた。
 松阪さんに救われた「メリーちゃん」は、1997年の7月20日、南郷サマージャズフェスティバルに招待される。その時に着ていく洋服、お出かけ服のデザインを青森県内の小学生から募集した。
 今では毎年3月3日は学芸員さんと島守小学校にお出かけし、お雛様と一緒に飾ってひな祭りのお祝いをする。子ども達と一緒に記念撮影をし、南郷歴史民俗資料館に帰るのである。そうして子ども達は「メリーちゃん」の歴史を学んでいる。
 松坂さんと「メリーちゃん」は不思議な縁で結ばれている。松坂さんの想いが「メリーちゃん」を現代に生かし、米国の人々と南郷の人々との温かい友情を熱く伝えているのである。



取材に応えてくれた方

中尻貴之(なかじりたかゆき)/プロフィール
1989年生まれ。八戸市湊高台で生まれ育つ。幼い頃から昔話や言い伝えに興味があり、学芸員の道を志す。八戸市立博物館を経て、現在は八戸市南郷歴史民俗資料館で民俗の分野を担当している。

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取材と文

慶長洋子(けいちょうようこ)/プロフィール
61歳。八戸市の委託で出前消費者講座を行っている。町内会、老人クラブ、ホットサロンなどの集まりにお邪魔し、多くの皆さんとの出会いを楽しみにしている。いつまでも新しいことにチャレンジできる自分でいたい。

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