No.39
えんぶり発祥の地、売市
立花藤九郎というえんぶりの名手が住んでいたという、
えんぶり発祥の地、売市。だから他とは少し違う。
八百年の伝統を誇りに変えて、えんぶりは舞い続けられる。
坂本健
取材・文 田名部遥
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えんぶりとは、八戸に古くから伝わる伝統芸能である。冬になると、しんしんと降る雪の中、39組のえんぶり組が舞う。その中で、ひときわ長い歴史を持つのが「売市えんぶり組」である。その伝統について、代表の坂本健さんからお話をうかがった。
売市えんぶり組は、29名から成っている組である。そのうち、こどもは9名、3歳のこどもから所属しているという。組の多くの人は働きながら練習に参加している。中には、太夫を務める方が、除雪の仕事に携わっているため、練習の時期に休みがなかなか取れないこともあったらしい。会社員の方もなかなか休みが取れず、忙しい合間をぬって練習している。しかし100年以上の歴史を守るためにみんなでなんとか時間を合わせて練習を続けているそうだ。それを知って私は、長い歴史を守るために、自分の時間を削ってまでも練習するのは、売市えんぶり組に思い入れがあり、他の組に負けないほどの魅力があるからなのだ、と思った。10年後、50年後もこの歴史を守りたいと組のみなさんは切望している。
しかし、中学生や高校生になると、辞めていく人が多く、高校を卒業すると地元を離れる人もいるため、大人が足りないという。昔は八戸地域に100組もあったえんぶり組が、今では39組にまで減ってしまった。その原因はやはり人手不足だ。太夫が5人いる組は、どこかの組と合併した可能性があるらしい。売市えんぶり組では去年までこどもたちのお母さんによる炊き出しが行われていたが、とうとう今年は炊き出しのグループが解散してしまったという。さらにそのグループは三社大祭のときにも炊き出しを実施してくれていたため、大きな影響を及ぼしている。地元離れや少子化は、将来に大きく関わる問題だということを、思いもかけず「えんぶり」を通して知ることとなった。
売市えんぶり組は、全てのえんぶり組39組をまとめる「取締役」と呼ばれる6組のえんぶり組のうちの1組だ。取締役は、他の組が長者山に並ぶ時、衣装の検査などをする。全員が揃っているか、伝統に則って「つまご(わらぐつ)」を履いているかなど厳しくチェックする。その取締役の中で、唯一長者山の境内にのぼって参拝することが許されている組が売市だ。それは、えんぶりの発祥と大きく関わっている。えんぶりの発祥地が売市と言わているため、先祖代々境内にのぼって参拝してきた。これは他の取締役には許されていない重要な役目であり、地域の誇りである。境内の中では舞わず、参拝だけ行うという。
えんぶりには「ながえんぶり」と「どうさいえんぶり」がある。ながえんぶりの太夫のえぼしには必ず大きなぼたんの花が付いている。売市はながえんぶりの組なのだが、他の組とは違い、えぼしにはぼたんの花が付いていない。約800年の歴史があるえんぶりだが、もともと烏帽子にはぼたんがついていなかったようだ。一度禁止されていたえんぶりを明治14年に大沢多門が「豊年祭」として復活させた時からぼたんを付けるようになったと言われている。売市えんぶり組では以前のスタイルをそのまま継承し、現在までぼたんがついていないえぼしが使われていると言い伝えられている。
えんぶりは、豊作を祈るために舞うといわれているが、売市では違う。昔、売市に住んでいた家臣の立花籐九郎が殿様の前で舞ったのがえんぶりの始まりとされ、売市がえんぶりの発祥の地といわれている。そのため、衣装も他の組とは少し違う。売市では殿様を守る忍びの者のような黒が多く使われた衣装が特徴的である。今でもその歴史が受け継がれて、頭には頭巾をかぶり、刀を一寸(約3センチ)さやから抜いた状態のまま参拝する。頭巾をかぶるのは、忍者のように目立たぬように、一寸だけ刀を抜くのはいつ敵が来てもいいように、という戦いに備えた構えなのである。そのため、舞うときに決して客に対して背中を向けない。敵に背中を向けないということなのだ。他にも、売市では昔、旗の先が槍だったという。
えんぶりの「発祥の地」であることを誇りに思い、守り続ける姿勢が、見る人々を魅了する。
800年以上の歴史を持つ売市えんぶり組。その長い歴史を守り続ける重圧は計り知れないものだと思う。しかし、唯一境内にのぼることができ、他の組とは異なる特徴をいくつも持って輝き続けることは、地域の人にとっても、八戸にとっても誇らしいことだと感じる。これから10年、50年、もっと先まで、売市唯一の伝統を守って舞い続けてほしい。
取材に応えてくれた方
坂本健(さかもとけん)/プロフィール
1962年生まれ。売市で生まれ育つ。43代目の売市消防団の部長を務めた。売市えんぶり組の親方を務めた父の跡を継ぎ、自身も消防団・えんぶり組に参加することとなる。売市えんぶり組に所属し12年、親方を11年務める。現在は太夫を務めるほか、子ども達への指導も行っている。
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取材と文
田名部遥(たなぶはるか)/プロフィール
八戸東高校2年3組。硬式テニス部に所属。中居林在住。中学校のときはソフトテニス部に所属していましたが、錦織圭に憧れて硬式テニス部に入部。音楽を聴くことが好きでBLUE ENCOUNTに惹かれている。