No.62
豊崎奉納相撲が地域をつなぐ
毎年秋に七崎神社で行われている豊崎奉納相撲。
参加者が少なくなった今、住民が力を合わせ守っているのは、
相撲が結ぶ、地域の人同士の見えない絆だ。
小田法男 田村英世
取材・文 寺井麻衣子
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今回私は、八戸市豊崎町の伝統行事「奉納相撲」について、相撲愛好会の小田法男さん、田村英世さんにお話をお聞きした。
「奉納相撲」。最初、私はこの文字通り、神様に奉納するためのとても荘厳な儀式のような相撲であると思っていた。しかし、話を聞いてみるとそれだけではなく、豊崎町に住んでいる人や、実際に奉納相撲に参加している人にしかわからない喜びや苦労がたくさん詰まっている、地域の人に無くてはならない「相撲」だったのだと思った。
昔、この豊崎町の奉納相撲は、9月6日に前夜祭、7日に奉納相撲、8日に演芸会と、三日間にわたって様々な催しが行われていた。前夜祭には、子ども達が楽しめる屋台が出て、大いに家族連れや子どもたちで賑わい、奉納相撲では、若さを生かした元気いっぱいの中学生や、大きな体を生かした力強い大人たちが熱戦を繰り広げていた。世代を超えて地域の人々みんなが応援し、盛り上がったり喜んだりしたものだったという。演芸会では、住民の女性たちが踊り子として美しく華やかな舞を披露したり、子ども達がパワフルな踊りを披露したりと、男女年齢問わず楽しい交流の場になっていた。ちなみに田村さんご夫婦は、ここで運命の出会いを果たし結婚。お二人は今でも当時と同じように仲良く幸せに暮らしているそうだ。あまり外にでる機会なんてなかった時代だったから、若い男女にとっては貴重な出会いの場でもあったらしい。
当時この時期には、地域みんなで力を合わせて、この三日間のために一から設営・運営したそうだ。地域のみんなが世代を超えて楽しめる、こんな三日間があるとは、なんて素晴らしいんだろう。私は驚くと同時に羨ましくなった。普段は仕事ばかりであまり交わることのない住民たちが、この三日間で熱く、大きく、広く交わることができたのだ。しかし、時代の流れとともに年々参加者は減少し、今では前夜祭や演芸会は行われなくなってしまった。
「伝統を守ることも大切だが、それまでになかった新しいものを加えていくことも大切だ」と、お二人はおっしゃった。当初、この奉納相撲は地域の大人だけが出場していた。
しかし、人口が減り出場者が減ったこともあり、現在は豊崎小学校や豊崎中学校と協力し、愛好会とPTAで運営している。奉納相撲を行う際に必要となる「幣束」(へいそく)という木製の板にお札を取り付けたものがある。作物の豊作を祈って相撲を始める前に納められるものだ。その「幣束」を作る人も減少し、現在、小田さんだけが幣束をつくっている状態だという。「伝統的な形はあるが、自分がかっこいいと思う形になるように毎年作っているんです」と小田さんはおっしゃる。伝統を絶やさないためにも、受け継がれてきた作り方をベースとし、若い人たちでも興味をもって作れるようにアレンジしている部分もあるそうだ。
伝統を受け継いでいくためには若い人たちの理解が必要となっていくと思う。そのためにも、若い人たちにわかってもらえるような工夫を盛り込むことで、伝統を受け継いでいける。そんな意味がお二人を中心とした豊崎奉納相撲の取り組みに込められていると思った。私はその思いに共感した。実際に伝統を受け継いできたお二人だからこそ、こぼれた思いだったのだろうと。
「人とのつながり」や「伝統」は目には見えないけれど、たしかにとても大切なものだ。小田さんと田村さんは、この伝統の豊崎奉納相撲を、昔から決まっているものだからと若い人達に固く押し付けることは決してしない。若い人たちに理解を求め、新しいものを加えつつ、伝統として受け継ごうとしていた。豊崎奉納相撲はこれから、いろいろな変化をしていくのだろう。今現在も参加者は減少しているという。でも、かつては地域住民みんなの楽しみだった豊崎奉納相撲。伝統としても、新しい住民としても、楽しみとしても、末永く残っていってほしいと思う。そんな地域のイベントに、私も参加したいと思うから。
取材に応えてくれた方
小田法男(おだのりお)/プロフィール
1947年八戸市尻内生まれ。結婚を機に豊崎町へ。地域交流と人脈形成のため、長男が通う豊崎小学校のPTA活動に参加。PTA体育委員会副会長を務める。小中学生の奉納相撲大会では指導者として参加。
田村英世(たむらひでよ)/プロフィール
1954年生まれ。豊崎で生まれ育つ。十勝沖地震を体験。インターハイでレスリング団体2位となる。昭和50年ごろに豊崎町相撲愛好会を設立。平成6年に第7代会長を務める。相撲と和太鼓をきっかけとした親子のコミュニティー作りをしている。
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取材と文
寺井麻衣子(てらいまいこ)/プロフィール
八戸東高等学校1年生。ソフトボール部に所属。写真を撮ることが趣味で将来はフォトジャーナリストになりたい。今回は将来に1歩踏み出す気持ちで参加した。最近「青森ワッツ」にハマっている。幼い頃から体を動かすのが大好きで、小学校では野球とバレーボール、中学校では陸上をやった。もっと地元八戸のことを知っていきたい。