No.59

ハマは心の楽園 ~大久喜の暮らし~

ハマの女たちは海に浸かってイソクサを採る。
冷たく厳しい仕事、それを楽しく乗り越えるために、
作業場は、彼女たちの陽気なおしゃべりで社交場に変わる。

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髙橋ミ子
取材・文 下斗米一哉

 『明日の9時から磯草採りを行います。怪我をしないように作業をしてください。』
 聞きなれた大久喜で流れる町内放送である。この放送以外にも、放送を聞き漏らした人のために、大久喜漁業生産部会が各町内会の班長に翌日の磯草採りの実施を電話で連絡するという。実施日は、気象潮汐表で干潮の日を確認し、天気図で悪天候ではない日を狙う。
 「磯草採り」とは、3月上旬にはふのり、のり、まつぼを、3月下旬にはわかめ、こんぶ(ざるめ)といった海草をしゃがんで採ることを言う。4月にはわかめ、アカハタといった海草のほかに、ウニなどを獲るそうだが、岩場に隠れているため、寝そべって獲らなければならないことから、この行為をこの地域では「探す」と言う。
 「海が好きじゃないとできないのよ。そして、おしゃべりしながら楽しむ。それが目的。いっぱい採ろうが採るまいが関係ないのよね。」そう話すのは、磯草採りを楽しむ髙橋ミ子さん。
 磯草採りは女性が主流で、ウェットスーツの上に色鮮やかなヤッケを着て、下は防水のパンツをはいて海に入る。「ウェットスーツだけだと格好が悪いから。量は採らないけどおしゃれには気をつかうのよ。」さながら女性が集う遊びの場のようでもある。
 春先とはいえ、北国の海は厳しい。海の水温は10度以下と、ウェットスーツを着ても身体の芯まで冷え切ってしまう寒さである。人は世界を自分の見たように見て、考えたように理解する。まだ水温も低い春先の海に入るということは、きっと辛いだけの行為だと勝手に思い込んでいた。楽しいとは正直意外だった。
 採った海草は、自分たちで食べたり近所にお裾分けしたりする。商売のために採っているわけではない。漁だけではない。何百坪もある畑でじゃがいもや大根、キャベツやネギなど様々な野菜を丹精込めて栽培している家もあるが、こちらも自分たちで食べたり近所にお裾分けしたりする。これだけの面積で畑仕事をすることは並大抵のことではないはずだが、これも生計を立てるためではないのだ。
 「昭和40年始め頃までは、『半農半漁』といって漁業だけでは生活できなかったので農業でも生計を立てていたんですが、県外の会社に就職する人が多くなってしまって、今の時代は『半農半漁』という言葉は当てはまらなくなってしまったんです。」ミ子さんの隣に座っていたご主人の信行さんが寂しそうに話してくれた。
 そのような現実はあるが、今でも大久喜に住んでいるミ子さんは、とても住みやすい場所だと言う。「とても静かな場所です。そして、そこに住む人たちはとても仲良し。もしかしたら上辺だけかもしれないけど、みんな和気あいあいとして姉妹のよう。許しあえる間柄なんです。」そう話したミ子さんの笑顔が、大久喜に住む人々の心の豊かさを物語っていた。
 大久喜を歩くととても綺麗な場所であることに気付く。海や畑が生活の一部になっていることにより、この「まち」を汚したくないという意識が高い。大久喜に住む人々の心の豊かさとこの「まち」を綺麗に維持していくという意識が、大久喜という楽園の景観を守り続けているのかもしれない。



取材に応えてくれた方

髙橋ミ子(たかはしみこ)/プロフィール
1950年八戸市大久喜で生まれ育つ。ここ数年までは、南浜連合婦人会の会長や大久喜婦人会の会長を務め、地域活動に貢献した。現在は、南浜防犯協会婦人部長。大久喜の厳島神社の鳥居再建に奔走した髙橋信行さんの妻である。

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取材と文

下斗米一哉(しもとまいかずや)/プロフィール
八戸ポータルミュージアム副館長。八戸市の長者地区に住み、はっちに勤務する48歳の男です。趣味で走ります。走ってはいるのですが(最近さぼり気味ですが)、年々タイムが落ちています。確実に、そして着実に。自分の身体の衰えに自分の脳が追いついていない(すなわち、若い頃の走るイメージを捨て切れていない)という悩みを抱えている今日この頃です。

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