No.38
おがみ神社のかぐらびと
神楽は天命と揺るぎない信念を持ち、
真摯にひたすらに伝統をつないでいく。
身体が舞うたびに、喜びと誇りで心が満ちていく。
松本徹 富岡明尚
取材・文 大村澪由
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今回、おがみ神社と法霊神楽について、松本徹さんと富岡明尚さんからお話を伺いました。私は取材をするまで、三社大祭で権現様の歯打ちを見かける程度しか関わりがありませんでしたが、今回は詳しい話をたくさん聞くことが出来ました。
まず、神楽とは、神様を楽しませるための催しすべてを指します。その中のひとつに、法霊さんの神楽があります。幾多もの神楽が存在しますが、法霊神楽ならではの特徴として、神様とより密接な関係であることが挙げられます。礼儀を重んじ、観客が一人だろうと千人だろうと、祈る気持ちは変わらない。その姿勢に脱帽しました。また、伝統を受け継ぐため、江南小学校や、他の小学校の児童に稽古をする取組が続いているそうです。こういった芸能は学校の体育館などで稽古をすることが一般的ですが、法霊神楽は神社で稽古をしています。より神様と近い場所で、緊張感を持った稽古ができるそうです。
松本さんが法霊神楽に魅せられたのは小学4年生の頃。父が踊る姿を見た時に、「かっこいい」という言葉しか出てこなかったと目を輝かせて振り返ってくれました。一年を通して100日は法霊神楽に時間を使っている生活から、松本さんらにとって法霊神楽がどれだけ大切なものであるかが伝わりました。
また、松本さんや富岡さんは、様々な歴史について資料を見ることもせず、詳しく教えてくださいました。技術も歴史も、実際に、人から人へ稽古場で教えてもらうことで受け継いできたそうです。そのため、師匠のくせだったり、好みによって徐々に形は変化しながら今まで繋がってきたそうです。たくさんの神楽が日本の神社に存在しますが、「あ、ここは笛の音が同じだ」と気づくこともあると、松本さんは楽しそうに話していました。歴史をたどると確かに、同じ師匠から教えて貰っているそうです。そんな見えない繋がりにとても胸が躍りました。何百年ともいえる歴史に圧倒されました。
法霊神楽は、一年に幾度も披露する機会があります。お正月の春祈祷から始まり、5月の神楽祭、神様の年越しをお祈りする収穫祭など、多忙な日々だそうです。6月には結婚式に呼ばれることも多いそうです。春祈祷では待っていてくれる人、涙を流して喜んでくれる人がいるから、法霊神楽は続いているのだとおっしゃっていました。
松本さんは、「自分たちにとって神楽は天命と感じています。」とおっしゃいました。その言葉から松本さんらが神楽に取組むことが決して生半可なものではないことがひしひしと伝わってきました。その覚悟に心を打たれました。
松本さんがおっしゃった中でとても印象的なものに、「神楽を芸能から信仰へ」という言葉があります。ただ踊ることが神楽なのではなく、神様へ想いを届けることが前提にあること、歴史や技術を生身の人を通して繋げること、道具を修理し、あるいは造っていくこと。そのすべてが伝統であるということに重みを感じました。
そんな素晴らしい神楽が、八戸にあることをとても誇りに思います。後世へずっと続いていくことを願っています。
取材に応えてくれた方
松本徹(まつもととおる)/プロフィール
1965年八戸市生まれ。 神社法霊神楽保存会会長。趣味はアウトドア(渓流釣り、竹の子、キノコ採り)。八戸市内に神楽の団体は十数団体あります。それぞれに誇りを持って繋いできた歴史、信仰、技があります。皆さんが興味をもって下されば、途絶える事はなく、それはまた、産土神(その地域を守る神さま)が喜んでくれる事と思います。温かいご声援を期待します。
富岡明尚(とみおかともなお)/プロフィール
1967年八戸市生まれ。神楽の他には、我が子の部活動(スピードスケート、野球、陸上)を見守るのがとても楽しいです。
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取材と文
大村澪由(おおむらみゆ)/プロフィール
八戸東高校1年生。文芸部所属。趣味はベースを弾くこと。