No.22

生きがいは糠塚きゅうり

「おいしい!」のひとことがつくり手を奮い立たせる。
手間ひまと愛情を惜しみなく注ぎ、信念を貫きながら、
八戸の伝統野菜を守り抜く人の生きがいストーリー。

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金濱一美 金濱マス
取材・文 長谷川桃華

 「シャキシャキ。パリパリ。」
太くて、まっすぐで、ずっしり。みずみずしさと、肉厚さによるこの食感は、江戸時代から糠塚の人々を魅了してきた。そんな糠塚きゅうりは今、スーパーでは売っておらず、一部の朝市や農家の直売、糠塚きゅうりを作っている金濱一美さんの家の前の無人販売所でしか手に入れることができない。

 金濱一美さんは、祖父の代から百年近く糠塚きゅうりの変わらない味を守り続けている農家だ。七十七歳になった金濱さんの体調は今、あまりよくない。それでも、糠塚きゅうりの伝統を守ろうと頑張っている。
 金濱さんによると、糠塚きゅうりを育てる中で大変なのは、まず糠塚きゅうりと他の野菜の花粉を交配させないようにすることだ。交配してしまうと、曲がった形になりパリパリとした食感がなくおいしくないものができてしまう。純粋な糠塚きゅうりの種を維持するのは極めて難しいそうだ。そのため、糠塚きゅうりは他に育てている野菜とは離れた場所で育てている。
 それだけではない。百年近く受け継いできた味を守るため、収穫の際に金濱さんが種、色、形を見てこれまでと変わらない糠塚きゅうりを選んでいる。
 また、苗を育てることも大変だ。植え替えは三回も必要で、また、霜がおりるとすぐに枯れてしまう。さらには、一度枯れてしまうと種からまたやり直しになるため、5月中旬頃の霜がおりなくなってから苗を畑に植え替える。
 このように糠塚きゅうりは、多くの手間と金濱さんの長年の経験によってこれまでと変わらない味が守られ、育てられてきた。
 金濱さんは、できた糠塚きゅうりの一部を地域の人たちに分けている。糠塚きゅうりをあげた人たちのうれしそうな顔が、たとえ具合が悪くても糠塚きゅうり栽培を頑張る原動力となっている。

 金濱さんに、糠塚きゅうりの一番おいしい食べ方を聞いた。
「畑からとったら水へつけて、冷蔵庫さ入れて冷やして、味噌つけて食べるのが糠塚きゅうりの一番おいしい食べ方なんだ。」糠塚きゅうりを食べる機会があったら、ぜひこの食べ方で食べてほしい。
 糠塚きゅうりは一株にできる数が、よく売られているきゅうりと比べて十本と少ない。だから、農家にとっては効率よく儲かる作物ではないのだ。だから、糠塚きゅうりを育てる農家が減少している。そういうわけで糠塚きゅうりを手に入れる場所が少なくなってしまう。
 本物の糠塚きゅうりを後世へ残すために三年前「糠塚きゅうり伝承会」ができた。その会員は金濱さんを含め九人の農家で、若い人はいないという。存続の危機に直面している糠塚きゅうりであるが、金濱さんは伝承会の会員が協力して種を残していってほしいと願っている。

 糠塚きゅうりの育て方はこのように手間がかかる。そんな糠塚きゅうりの変わらぬ味を守って育ててきた金濱さんにとって、糠塚きゅうりは「生きがい」だという。
「体具合が少し悪くても糠塚きゅうりのためなら頑張れる。」
金濱さんは、熱のこもった目で話した。
 私は金濱さんに取材をさせていただいて、金濱さんの糠塚きゅうりに対する愛情がとても心に残った。金濱さんは、
「自分の子どもより大切だよ。」と言った。そのように大きな愛情によって育てられた糠塚きゅうりを絶対になくしてはいけないと思った。そして、金濱さんも願っているとおり、糠塚だけでなく全国に糠塚きゅうりのおいしさを知ってほしいと強く思った。

取材に応えてくれた方

金濱一美(かねはまかずみ)/プロフィール
1940年、八戸市糠塚生まれ。丹精こめて糠塚きゅうりを育てている。趣味は山菜採り。春は筍、蕗、蕨、ぜんまい。秋はきのこや山葡萄を採るのが楽しみ。ほかにも、カラオケや旅行が好き。

金濱マス(かねはまます)/プロフィール
1944年、岩手県軽米町生まれ。一美さんと二人三脚で糠塚きゅうりを育てている。趣味は旅行や踊り、ホールでの公演を見て歩くこと。

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取材と文

長谷川桃華(はせがわももか)/プロフィール
八戸東高等学校1年生。ソフトボール部に所属。趣味は音楽を聴くこと。特に好きなアーティストはGReeeeNで「キセキ」が好き。休日は家でゆっくりとしていることが多い。将来は医療系の職業に就きたい。


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