No.24
死者と心を通わせる場で
亡くした人への恋しさが胸を打つ「鮫の墓獅子」。
せつない獅子の舞い、
そしてその背中に交差する心にしみる唄声に、
魂が震える、涙があふれ出る。
柾谷伸夫
取材・文 宮沢日菜子
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あの言葉を聞いた瞬間の、心が騒ぐ感覚を私は忘れない。
私は「鮫神楽の墓獅子」のことを聞くために鮫神楽保存会の会長である柾谷伸夫さんの元を訪ねた。墓獅子は全国的にも珍しく、毎年お盆の14日15日の2日間、依頼された家族・親族と墓石の間で、掛け歌と笛・太鼓・手平鉦、そして獅子頭によって死者達を迎え入れる舞が披露される。歴史的には、室町時代辺りから始まったといわれる、墓に歌をかけることで死者を現世に招き寄せる死者慰霊の民間信仰・習俗である。
私が事前に映像で見た感想を述べると、柾谷さんは言った。
「君には、そう見えるんだね。」
その言葉に私は驚いた。インターネットでたまたま私が目にした「墓獅子」は、静寂を破るリズミカルな太鼓の音色。それにのって頭を大きく降る獅子頭の姿。そう、私にはとても明るく賑やかな「墓獅子」だったのだ。
「えっ。では、本当は何が違うのですか。」
「ん~。悪ぐないんだけども、違うんだでァ~。」
南部なまりが効いた柾谷さんの声はどこか安心感があり、魅力的である。紙を渡され内容をじっと見ると墓獅子の歌詞がついていた。すると柾谷さんはすっと目を閉じ、こう始めた。
「インヨウホー 恋しさに恋しき人を来てれば ヤー♪ 見るより早くしぼる袖かなー ヤーハー♪」
部屋いっぱいに柾谷さんの歌声が優しく、力強く響く。さっきとはガラッと変わり、魂がこもった声になっていた。
「僕はねぇ、これを聞いていると、涙が出てくるんだよぉ。」
私もそう感じずにはいられなかった。そうか、これは亡くなった人を恋しく思うせつなさを表す舞いだったのだ。獅子頭の背を震わせて涙をぬぐように舞う姿が目に浮かぶ。初めの頃と今では、同じ墓獅子でも、全く別のものを見ているような気分だった。
死者たちを迎え入れ、言葉を交わし、成仏を願う歌。メールも電話もつながらない向こうの世界。そんななか、遺された方々にとってこの歌はどんなに大切だったのだろうか。あの世に思いを託す気持ちで声を震わせていたのだろう。そう、この墓獅子は、歌の掛け合いによる生者と死者との"心の交流"なのである。
私は、こんなすばらしいものが、八戸にあるなんて知らなかった。この墓獅子のことを多くの人に知ってもらい、絶やしてはいけないと思う。現在は、墓獅子を舞う鮫神楽連中の高齢化が進み、次世代への継承が困難になってきている。
「さみしいなぁ。ぜひパフォーマンスの楽しさを知ってほしいんだけどもねぇ。」
柾谷さんの言う楽しさとは、依頼主に感動を与えているという手応えなのだろう。魂の歌には何もいらない。受け継いでいきたいっ!! という想いと、この伝統芸能に注ぐ愛情さえあれば。
たくさんの人の"想い"がつまった鮫神楽の墓獅子。柾谷さんの手の動きをつけての生の歌を私は忘れられない。繊細かつ力強い歌声。このような歌だからこそ、ただ真っすぐに死者の方たちのもとへ届くのかもしれない。そして、今を生きる私たちの励みとなり、目には見えないが、そっと背中を押してくれるような歌である。
これから先、私がおばあちゃんになっても、この伝統芸能の鼓動を絶やしたくない。「インヨウホー♪」・・・・・・獅子頭の歯打ちと魂の音色が響き続けることを願っている。
鮫の土地、そして人々の心に・・・・・・
取材に応えてくれた方
柾谷伸夫(まさやのぶお)/プロフィール
1948年八戸市鮫町生まれ。地域演劇活動や八戸聖ウルスラ学院高等学校教諭時代には高校演劇の指導に力を注ぐ。定年後は八戸市公民館館長として、うみねこ演劇塾、「南部昔コ」語り養成講座を開設し、指導役を務める。八戸童話会会長、鮫神楽保存会会長、演劇集団ごめ企画代表も務め、八戸市の文化活動に貢献している。
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取材と文
宮沢日菜子(みやさわひなこ)/プロフィール
八戸東高1年。所属部活動はソフトボール部。ポジションはレフトです。今年の目標は、部活動で先輩方のために上達してヒットを打てるようになることです。勉強面でもヒットを打って、そして恋愛面ではホームランを打てるようになりたいです。