No.77

塩町のおかあさんの塩にぎり

代々受け継がれてきた伝統の塩むすびが、
灼熱の夏を焦がす八戸三社大祭の山車組を支えてきた。
祭りの陰でキラリと光る、女たちの汗がある。

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笠原榮子
取材・文 西久保真美

 経木に包まれた二つのまるい塩にぎり、ふっくらつやつやで真ん中に黒ゴマがちょんと付けられ、昔から変わらぬスタイルで三社大祭の五日間、塩町山車組の引き子たちのおなかを満たしてきました。塩にぎりには、水分を程よく逃してくれる経木が一番とのこと。写真を見せられ、お話を伺った日から塩にぎりのことが頭から離れないでいます。ご飯を炊くたびに握ってみたくなり「食べる頃にちょうど良くなる塩加減ってこんな感じかしら?」「おにぎりが悪くならないように、水は極力つけずに塩だけで?」「あまりきつく握らず、それでいて崩れない程度に?」お話に出てきた塩町山車組伝統の塩にぎりの作り方が繰り返し浮かんできます。夏の強い日差しの下で、定番の胡瓜の漬物と塩にぎりを美味しそうに頬張るお祭り姿の子どもたちの姿も思い浮かびます。
 塩町山車組は、明治時代からの歴史があり、多くの優勝山車を制作してきました。地域の固い団結力で、八戸三社大祭全体のレベルアップに貢献し続けてきました。その山車組を縁の下の力持ちで応援し続けてきた女性チームの活躍をご紹介致します。
 塩町消防団屯所の程近くにお住まいの笠原榮子さん。2月初旬、そろそろえんぶりの準備で忙しいという御主人の武明さんと一緒に出迎えて下さいました。笠原家は、代々山車組やえんぶり組に関わりがあり、今でも親類が集まれば、えんぶりのおはやしから舞まで全て披露できるほどの役者ぞろいとのことです。榮子さんは42年前に柏崎新町に嫁がれ、それからまもなく武明さんが山車組の親方になったため、炊き出しのお世話をすることになりました。
「幸せなことに、子どもが小さくてもお姑さんが快く面倒を見てくれたのでやれました。」
と、榮子さん。武明さんが親方を辞められて少しお休みしていましたが、18年前に屯所がご自宅のそばに建ってからは、町内の年配の方たちと共に山車組を支え、今は大ベテランとしてリーダー的役割を果たされています。
 焚き出しの作業内容は、前夜祭から後夜祭までの5日間、延べにして約1500人分(3000個)のおにぎり作りと、約30人分のスタッフの毎晩の夜食の準備です。
「若い人が多いから揚げ物や煮物などボリュームのあるメニューを考えます。おにぎりを握りながら、その合間に夜食の料理をしたり、次の日の胡瓜を漬けたりして、お昼には作業を終わらせます。そして午後は子どもたちとお祭りに参加します。」
相当な作業内容にもかかわらず、全く大変そうなそぶりも見せずに笑顔で語る榮子さん。今後への継承を考えて、メンバーが高齢や病気などで不足したのをきっかけに若い人にも入ってもらい、現在は30代から70代の女性7名で活動しています。その日の段取りを素早く頭に入れて、それぞれが適材適所の仕事を見つけて働くので、効率よくそして気持ちよく作業が進みます。またふきんやまな板などの調理用具の衛生管理などもメンバー全員で細心の注意を払っているそうです。
 榮子さんが嫁がれた頃は、三社大祭は8月の下旬に行われていて、塩にぎりに茄子の漬物が定番だったそうです。開催が8月初旬になってからは茄子は時期的に難しいので、胡瓜の漬物になったそうです。子どもの頃を懐かしがるスタッフのために、数年前から夜食の一皿に茄子の漬物も添えられているという優しい気遣いにも感心させられました。
 インタビューの中で、これを語らずに塩町を語ることはできないという様子で、榮子さんは話し始めました。
「塩町には昔から和合組というのあってね・・・。」
「和合組」とは「消防団」「山車組」「えんぶり組」の3本柱のことです。地域の人が自ら地域を守る消防団という自衛の組織が、三社大祭やえんぶりのような素晴らしい祭りを支えているのです。「和合組」は、昔からある八戸の伝統を象徴するような組織なのです。その誇り高き地域の伝統を守る心意気が、塩町に今もなお息づいています。

取材に応えてくれた方

笠原榮子(かさはらえいこ)/プロフィール
1954年八戸市尻内で生まれ育つ。42年前に柏崎新町に嫁ぐ。それまではお祭りにはあまり興味はなかったが、嫁ぎ先の笠原家は代々続くお祭り一家のため、三社大祭・えんぶり、消防団と全ての和合に関わるようになる。現在は三社大祭の賄いを担当している。

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取材と文

西久保真美(にしくぼまみ)/プロフィール
50代。ミセスV6という女性ビデオグループに所属。八戸テレビ放送の「元気な仲間」という番組を企画・制作。地域で活躍する方々を紹介する活動をしている。


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