No.47
水とバナナとサイダーと
地元の名水を使ったサイダーと贅沢品だったバナナ。
夢のような組み合わせを実現したバナナサイダーは、
庶民を喜ばせたい一心から誕生したヒット商品。
橋本俊二
取材・文 河野秀清
「水とバナナとサイダーと|八戸88ストーリーズ」をシェア
八戸は水がおいしい。三島の水、蟹沢の水、白山の水と三つの水源がある。
どの水源の水を飲んでもおいしい。
そのおいしい水を使った飲料、三島サイダーを作っている会社がある。八戸製氷冷蔵株式会社である。
漁船に氷を供給する製氷会社の清涼飲料事業がこのサイダー作りだ。
大正の中期、清涼飲料事業の三島商会から営業権を譲り受け、サイダー、ラムネの清涼飲料事業に乗り出した。おいしい水の水源がある、街に近く、地元の協力があるという条件が揃い、清涼飲料を作れる素地があった。
サイダー、ラムネを作っていたが、白銀大火の災害に見舞われ、清涼飲料工場を焼失し、工場を現在の地に新設した。清涼飲料はサイダーが主になっていた。
昭和の30年代、バナナをみんなに味わせてやりたい。という思いで世に出したのがバナナサイダーである。
その当時、バナナは高級品である。今のように安くなかった。日常の生活では高嶺の花である。病気のときか、遠足のときにしか食べられなかった特別のものである。
栄養のある、おいしいバナナを、なんとか皆に一本ずつ食べさせるには、ものすごいお金がいる。また、どれほどの量が必要なのか計り知れない。それでも、みんなに食べさせてやりたい。社長の七代目橋本八右衛門はその思いが強かった。
ふと浮かんだのは、サイダーにバナナを加えるというアイディアだった。
そうすればみんながバナナを味わえる。きっと喜んでもらえるに違いない。
そのためにどのようにしたらいいのか、思考した。
バナナ風味の香料があるということを添加物屋から聞き、そして、取り寄せてもらった。
次に苦心したことは、取り寄せた香料をどのような割合で混ぜればいいのかである。いくつかのブレンドを試してみた。しかし、なかなか思うようにバナナ風味が出ない。どうしたものかなぁ・・と、試行錯誤した結果、ほんのりバナナの香りを感じる、炭酸をやや抑えたサイダーにたどり着いた。
これだ!これでみんなにバナナを日常的に味わってもらえる。強い思いが叶えられた。
その強い思いで作ったサイダーだから、製法は、当時から現在まで全く変えていない。また、香料を提供してくれているメーカーも当時から香りを変えていない。香料メーカーには直にバナナ風味を醸し出す香料を提供してもらっている。
今、三島シトロン、三島バナナサイダーは八戸人なら誰もが知っている。しかし、バナナサイダーを世に送り出した先人の強い思いを知る人はあまりいない。
取材に応えてくれた方
橋本俊二(はしもとしゅんじ)/プロフィール
1959年八戸市長根で生まれ育つ。八戸製氷冷蔵株式会社の常務取締役。お酒は好きだが弱い。趣味は飲むこと。
×
取材と文
河野秀清(こうのひできよ)/プロフィール
昭和20年11月、兵庫県生まれ。モットーは「やってみなはれ!」やってみないとわからない。だめでもともと。文章を読む、文章を作るのは大好き。昔は北杜夫を好んで読んだ。