No.30
人の気持ちに寄り添って
人にとってより心地よい環境を生み出すために、
暮らしを思い描き、緻密な模型をつくり、検証を重ねる。
人々を思いやる心が、惜しみない情熱の源だ。
石田勉
取材・文 河野秀清
「人の気持ちに寄り添って|八戸88ストーリーズ」をシェア
「デザイン力とは整理整頓する能力。世の中は、ヒト、コト、モノが混乱している。その混乱を正し、美しくわかりやすくするのが本当のデザイン力だと信じている。」
はっちの和のスタジオの松の戸襖をデザインしたデザイナー、水戸岡鋭治氏のことばを石田勉氏は指針にしているという。
新井田川沿いに、八戸セメントという会社がある。八戸セメントはクリスマスが近づくころにタワーに電飾を灯すことで市民の目を楽しませているが、もう一つ、正門の塀と花壇が美しい曲線を描いて造られている。
このことを物思いに耽るように視線を遠くにやりながら懐かしそうに話した。
石田氏は、この塀と花壇の建築に携わった。
工事には、八戸セメント正門に沿って緩やかなカーブがあり、また、花壇もその曲線に沿って配置していかなければならない。
石田氏は幾度も打ち合わせを重ねたのち、図面だけでなく模型を作った。模型は当然のように図面をそのまま再現しているものである。打ち合わせにもその模型を使った。図面を読み取ることは専門家ならいざ知らず、一般的には少し難問である。模型だとわかりやすい。図面で表せないことでも立体的な模型では表せる。前から、上からと立体的に見えることが必要である。それは正門の立地的なものによる。人が往来する、車が往来する道路から下り坂になって正門になるからである。平らな直線の道路ならイメージはしやすいが、曲線で、なおかつ、上り下りの坂であるので分かりやすいものが必要である。イメージしにくい状況であるが、その場所に造られるであろう物が目の前にある。打ち合わせに出た当時の社長は、上から、横から見たのち、「わかりやすい、いいでしょう」と安心したような表情で話した。
八戸セメントの従業員及び通行する人達は、その作業が進行していくと形がはっきりしてくるその度に、「いい形ですね」「素晴らしい曲線ですね」と作業する人たちに声をかける。褒められるとうれしい。作業する人も誇りをもてる。石田氏はその言葉を聞くと嬉しかったと話した。
これほどまで立体的な模型にこだわるのは、ドールハウスというミニチュアを多く手掛けてきたからである。ドールハウスを作るときは12分の1にする、というこだわりがある。例えば、イタリアの世界的な椅子を手がけているスーパーレジェーラの椅子は12分の1で作り、特徴的な脚の三角も、そのままに作るほどである。このことは、冒頭に書かれている和のスタジオの戸襖のデザイン及びJR九州のななつ星in九州のデザインも手がけた水戸岡鋭治氏の考え方に大いに触発されたからである。
デザインandストーリーは氏のモットーである。モノづくりは、そのモノの仕上げまでを想い描き、日々完成に向けて積み重ねる努力は心の豊かさであるという、そして自分が作っていたものに触れることは、そこに思いを寄せて作り上げた手ざわり感であるという。
そのことは、見過ごされるであろう流木を使い、動物を描き、その動物の動きを表すように作りあげている作品を数多く手がけていることからうかがえる。
また、八戸市庁前の広場、階上町のフォレストピア階上の建物でそのことを表したと当時を振り返るような表情で語った。
さらに、八戸火力発電所の一部設備解体工事の時も図面だけでなく、ミニチュアを制作して解体方法のスケジュール打ち合わせに使ったという。関係者から、仕事の内容が分かりやすい。スケジュールも立てやすいと褒められた。そのことは仕事上の安心感から無災害の作業であった。
これからも、三次元模型を作りコミュニケーションを広げていきたい。と笑顔で話していた。
取材に応えてくれた方
石田勉(いしだつとむ)/プロフィール
1960年生まれ。八戸工業高校機械科卒。現在建設会社で建築、インテリア、土木、造園の仕事をしている。あおもりインテリアコーディネーター倶楽部に所属。様々なものづくりの支援及びデザインをライフワークにしている。
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取材と文
河野秀清(こうのひできよ)/プロフィール
昭和20年11月、兵庫県生まれ。モットーは「やってみなはれ!」やってみないとわからない。だめでもともと。文章を読む、文章を作るのは大好き。昔は北杜夫を好んで読んだ。