No.21

馬たちと365日 ~騎馬打毬を支える人~

年に一度、8月2日に行われる騎馬打毬のために、
「この伝統を終わらせるわけにはいかない」と、
固い一念で馬を育て訓練し、貴重な古武芸を守る男がいる。

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平野直
取材・文 今井田夏実

 よく晴れた十一月の午後、私はPOLOライディングクラブの門をくぐった。クラブに入るとすぐに、乗馬のトレーニングをする女性の姿が目に飛び込んできた。と、そこへ、
「そこ、もう少し右。もっと。・・・うん、いいんじゃない」
指導する声が聞こえる。目を向けると、練習場内に、頭にタオルを巻いた男性が仁王立ちしている。彼がここPOLOライディングクラブの場主、平野直さんである。

 練習が終わると、平野さんは私たちを応接室に通してくれた。
「あんまり上手くは答えられないよ」
緊張気味の私に、少し照れたように平野さんは言う。少しだけ、緊張がほぐれた気がした。
 インタビュー開始。まずは何を聞こう。騎馬打毬の歴史について教えてください。平野さんは語ってくれた。騎馬打毬の歴史は長く、古くは徳川吉宗の時代、戦のない時代に武芸の復興を図る策として、ヤブサメなどと共に行われたものだそうだ。八戸では190年前に南部八戸の藩主が始め、以来ずっとその伝統を守り続けている。日本で、古来からの伝統を忠実に守った騎馬打毬が行われているのは、現在、宮内庁、山形県、そして我らが八戸、この三カ所だけなのだそうだ。これは、大変に名誉なことなのではないだろうか。そもそも、騎馬打毬という競技は、競技場内に的を立て、的に空けられた小さな丸い穴に、馬を乗りこなしながら球を投げ入れていく競技で、宮内庁や山形では、このやり方にのっとって行われている。八戸では、的は使わず、門を立て、門の中に球を入れるやり方が主流だ。まるでラグビーのようでおもしろい。

 次に、騎馬打毬の魅力である。観客は、騎手が馬を巧みに操り的確に得点する姿の、勇大さや優雅さに魅せられる。また、奉納行事としての騎馬打毬は、伝統的な狩装束を着て行われるため、衣装のファッション性や個性も魅力のひとつだ。自身もプレイヤーだったという平野さんに、プレイヤー側から見た魅力は?と問いかけると、
「190年も続いた伝統を、終わらせるわけにもいかないから、ほとんど意地だね。使命感みたいなものをもってやっているよ」
と答えてくれた。なんでもないように笑ってみせる平野さんだが、資料の中の競技中の彼の眼差しは、自らの狙うただ一点をぐっと見すえていた。それは、他の誰よりも真剣な姿であった。

 騎馬打毬だけでなく、乗馬クラブのコーチもしている平野さんは、馬についても話してくれた。騎馬打毬に使われる馬は、北海道和種、いわゆる道産子とサラブレッドの主に二種類あるが、八戸では道産子だけだ。動物は野生に近いほど丈夫なので、道産子は外で飼っても平気だが、サラブレッドは屋内で飼育しなければならない。馬にも性格がある。コミュニティを築き、強い者弱い者、ボスだっている。動物に名前をつけると、観察しやすくなるだけでなく、愛着が生まれ、温かさを感じることができる・・・など、深い観察と経験に基づいた馬についての奥深いお話を伺うことができた。また、獣医師会で行なっている小学生に乗馬体験をさせる「出前乗馬」では、子どもたちに命の大切さや相手を思う心を教えて回るのだそうだ。
 生きものを扱う以上、飼料やワラ集めは、どうしても人の手を借りなければやっていけない。病気の心配もある。伝統を残していくために、後継者もいなくてはならない。馬を見つめる平野さんの目は、優しかった。もっと乗馬を、騎馬打毬を、世の人々に知ってほしいと切望し、伝統を継承している彼の言葉は、一つひとつが胸に染みた。私も、『後世に残したい』と心から思える何かに将来出逢いたい、と感じられた体験だった。



取材に応えてくれた方

平野直(ひらのなお)/プロフィール
1951年富山県生まれ。日本大学獣医学部卒。八戸市の競走馬生産団体で獣医師として勤務し、馬の繁殖に携わる。加賀美流騎馬打毬には昭和51(1976)年より参加し、現在、八戸騎馬打毬会副会長。平成9(1998)年馬術部経験を生かしPOLOライディングクラブを開業し、一般の人々に乗馬の楽しさを教える他、騎馬打毬に利用する馬の繁殖・育成をし、騎士の養成を行なっている。

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取材と文

今井田夏実(いまいだなつみ)/プロフィール
十和田市出身。八戸東高1年。文芸部に所属。

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