No.69

桜は今もそこに咲く

根城小学校笹子分校跡地にその桜の木はある。
かつてここに集った人々の姿、子どもたちの歓声・・・。
その賑わいが消えた今も、桜は咲き続け、春を告げる。

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大久保直次郎
取材・文 工藤恵美子

 廃校となった根城小学校の分校跡地に残る5本の桜の木。お話をしてくださるのは鉈一本で八幡馬を制作する大久保直次郎さんと聞いて、胸がときめいた。これは感動的なお話が聴けるに違いない。
 当初分校は個人が所有する場所にあったが、地区の住民がお金を出し合って原野を買い、自分たちの手で造成し、昭和27年、分校の新校舎が建てられた。そのときに児童全員で桜を植えたという。3年生だった直次郎さんの背丈くらいの苗木だった。親たちが土地造成に尽力し、桜の苗木とともに成長した。我が子も学んだ分校校舎と、昭和56年に廃校になるまでを見続けた桜。「何か思い出は?」との問いに困った顔の直次郎さん。
「親たちが造成したのは覚えでるが、そのときの親の気持ちはわがらないし、学校には行くもんだと思っていだし、1回も休んだことはない。特別面白かったとか、つらがったとかもないな。廃校になったのは入る子どもが減ったからだしな」と淡々と話す。
 ソメイヨシノと遅咲きの桜が1~2本。まち(八戸の中心部)より一足遅いものの、待ちわびた春を連れてくる。木は自然のままにのびのびと育ち、今では両腕を回しても届かないくらい大きくなって、満開の桜は見事なのだそうだ。
 この地区は、16戸ほどが暮らし、皆が顔なじみで互いのことをよく知っている。「町内の人はみんないい人だから」と嬉しそうに話す。風景も昔からほとんど変わっていない。田んぼや畑のゆるい斜面の中に萱葺(かやぶき)屋根の家や薪ストーブの煙突も見える、日本の原風景とも言える場所である。狐は今も見かけるという。天気の良い日にはお日様の光が十分に注がれ、米も野菜もよく育ちそうである。
「小学校から帰れば、ため池で泳いだりエビ獲って遊んだもんだ。冬は田んぼに水入れて凍らせてスケートもしたな。みんな子ども達だけでやるんだ。ガキ大将に『やらねばふたぐ(叩く)』って言われてな。スキーも自分たちで竹で作ったよ」と懐かしむ直次郎さん。田植えの頃は学校が休みになり、この地区では子どもも立派な働き手だった。農作業の手伝いの他にも、ご飯の支度や洗濯は当たり前。
「根城中学校には山(今の白山台)を超えて40分くらい歩いたかな。おなかすいたら山の黄色いイチゴを食べたり、誰かの畑になっている実を食べたりしてな」といたずらっぽく笑う。畑の主もそんなことは百も承知で実をたわわなままにしていたに違いない。

 結局、1時間ほどの話の中に、当初期待していたような感動的な話はなかった。話が途切れ、ふと直次郎さんを見ると、おだやかで満ち足りた眼差しがあった。「桜は特に剪定したりしたわけでもなく、そのままだよ。病気になった時は手入れしたけどな」
 そうだ、その桜の木が残っているということは確かにここに子どもだった直次郎さんたちが通っていた学校があったということなのだ。そして、直次郎さんにとって、それは決して"特別なもの"ではなく、子ども時代の日常に当たり前にあったものなのだ。
 分校校舎が地域の努力で建てられ、桜の木が植えられ、そこで学び、卒業し、日常が続いてきた。分校の廃校も桜の木も全てがその日常の中にあるのだ。「おたくさんたちのおかげで楽しい思い出がよみがえってきました」と語る直次郎さんの笑顔に、長い間変わることのない日常や風景こそが、もしかしたら、何よりもかけがえのない宝、この上ない豊かさなのではないかと気づかされた。

 分校跡地は現在、南白山台の外れに含まれている。山が造成されニュータウンができ、様々なところから移り住んだ人たちで構成される白山台地区。以前は笹子地区の子どもたちの日常を見守ってきた桜の木が、今は全く新しいまちの人々を静かに待ってくれている。
 春になったら、その桜を見に足を運んでみたくなった。



取材に応えてくれた方

大久保直次郎(おおくぼなおじろう)/プロフィール
鉈の一刀彫り伝統型鉈削り4代目。鉈一本で仕上げる伝統的な技法を守って、八幡馬を作っています。これからも、命の続く限り八幡馬を作り続けます。

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取材と文

工藤恵美子(くどうえみこ)/プロフィール
五所川原市出身、58歳、主婦。ミセスV6という団体でビデオを制作し、はっちや八戸テレビで放映。男女共同参画の活動もしています。誰かのために何かしたい若者を応援したいと思い、青森ユースギャザリングというのを始めました。

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