No.65
未来へ浸透していくもの
一度途切れてしまった伝統の「高館駒踊り」復活のため、
大人に呼びかけられ、活動に参加する子どもたち。
伝承云々関係なく、子どもたちは素直な喜びで受け入れていた。
小笠原俊彦 西山哲夫 西舘礼子
取材・文 清水輝大
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楽しい場所には、自然と足が向く。楽しい場所だから、大切な場所。きちんと挨拶ができるし、笑顔でルールを守る。今季はじめての練習でみせた彼らの表情からは、誰かに行けと言われたから来るわけでなく、自分の本心からこの場を待ち望んでいたことを、聞かずとも容易にくみ取ることができる。確かに、高館地区に古くから残る「高館駒踊り」の伝統を継承している場だ。しかし、子どもたちは「駒踊りをのこさなくては!」と言葉ではいうものの、正直なところそんなことホントは少しも思ってなく、ただ遊びに来ている感覚なんだろうと思った。それは決してイタズラに練習しているわけではない。高館駒踊りがもつ魅力を素直に楽しみ、もっと努力したいと思っている子どもたちの姿がそこにある。指導する西舘礼子さんが作り出す雰囲気が、自然で明るく、子どもたちの「楽しい」に寄り添ったものであるが故のものなのだろう。
「高館の駒踊りは一度無くなったんです。」と高館駒踊保存会会長の小笠原俊彦さんは言う。高館地区の駒踊りは、享保年間(1716~1735年頃)に青森県三戸郡の旧・倉石村で創始されたものが五戸を経由して1800年代に伝わったとされる。高館駒踊りは本来、高館村の長男のみが踊ることを許されていた。しかし時代の流れとともに条件に適う継承者が減った。その後は高館町内の青年団の若者たちが受け継ぎ、昭和39年「第13回全国青年大会」に青森県の代表として出場、努力賞を勝ち取った。「このころが近年の高館駒踊りでは最も盛り上がっていた」と小笠原さん。また、当時の中心メンバーである西山哲夫さんは「地区大会を勝ち抜くために技を磨いた日々が、今の高館駒踊りの基礎になっている」と振り返る。しかし、全国大会で入賞を果たしても、継承者減少の歯止めにはならなかった。
現在指導にあたる西舘さんが高館駒踊りに携わるようになったのは平成11年。継承者が無く、八戸三社大祭への参列も途絶えてしまっていた頃、保存会や子ども会、町内会が中心となって小中高生に駒踊りを伝承するプロジェクトを立ち上げた。それまで駒踊りに関わったことはなかったが、駒踊りをこのまま絶やしたくないと、自身も西山さんや保存会の方々から指導を受けた。長男だけが継承できる駒踊りではなく、子どもから大人まで、地域のみんなが参加できる新しい高館駒踊りが誕生した。確かに、賛否両論があった。
今季初だという今日の練習は、とてもなごやかだった。子どもたちが練習部屋に入る際、挨拶がしっかりできないともう一度やり直し。それでも彼らは喜んでやり直しに応じる。踊りの指導にも楽しそうに自分の悪いところを直す。年上の子が、当たり前に年下の子を指導する。「もっと踊りたい」「笛を吹きたい」が、「遊びたい」「お菓子食べたい」と同じように飛び交っている。「普段もとても仲良しなんです。私も、年齢は違うけど子どもたちと遊ぶし。」と西舘さんは話す。練習の場だけでない信頼関係を重視しているからこそ、作法や駒踊りの指導は、子どもたちにより深く浸透していくのかもしれない。
「伝承しなくては」なんてこれっぽっちも思っていないであろう子どもたち。でも、大人たちが演出してくれる心底楽しい「頑張り」や「達成」は、体験として彼らの体内に深く強く残ることはどうも間違いがなさそうだ。楽しい努力は自然と続き、親になれば子に勧める。賛否両論あった高館駒踊りの再生劇であるが、私には、「次の世代に伝えていく」ということについて、どんどん進化していっているように見えるのだ。
「全国こども民俗芸能大会に出られることが今年の目標なんです」と西舘さんは言う。「今年は出られるくらいの踊りができるんじゃないか」。この大きな目標は、また子どもたちの大きな体験となり、更には次の世代からの憧れにもなり、高館駒踊りは続いていく。
取材に応えてくれた方
小笠原俊彦(おがさわらとしひこ)/プロフィール
1956年5月5日八戸市高館出身。高館駒踊保存会会長。元自衛官で、那覇勤務の際は、那覇マラソンで4年間フルマラソンを完走。ちなみに那覇で現在の奥様と出会い、八戸に連れ帰った。使用するシューズはアディダスとニューバランス。
西山哲夫(にしやまてつお)/プロフィール
1946年三戸郡長苗代村(現在の高館)生まれ。高館駒踊保存会顧問。八戸精錬に40年以上勤務した。酒は病気を機にやめたが、大好きなカラオケは今もマイクを離さない。十八番は石原裕次郎の「北の旅人」と「夜霧よ今夜もありがとう」。
西舘礼子(にしだてれいこ)/プロフィール
1956年2月階上町生まれ。高館駒踊り指導者事務局長。高館駒踊りを絶やさないようにと、子ども達の指導にあたる。趣味はプロバスケットボール観戦。栃木ブレックスのファン。毎年プレイオフファイナルは「大人の休日」を利用して欠かさず行くようにしている。
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取材と文
清水輝大(しみずてるひろ)/プロフィール
昭和58年10月17日、貯蓄の日生まれなのに全然貯金が貯まらない。北海道出身。趣味はロードバイク、現在の愛車はBMC。片方だけ刈り上げた髪型をいつも必ず「おかしすぎるだろその髪型」と大地球さんがいじってくれるのが実は嬉しい。