No.1

アメリカ出身・八戸在住・弁砂明(べんじゃみん)。

生まれも育ちもアメリカ、つまり生粋のアメリカ人。
三沢の米軍基地で働いていたベンジャミンさんは、
いろんなことを越え、決断して、八戸の人になった。

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荒沢弁砂明
取材・文 小笠原彩子

 自分には、守るべき娘たちと妻がいる。娘たちはまだ小さい。
─ずっとそばにいよう─
 いろんなことを越えて、決心した。ここから八戸とつながっていく。いろいろあった。全てを背負って、八戸に戻る。
 生きていると色々な岐路がある。「荒沢弁砂明」さんもその一人だ。弁砂明さんはアメリカ出身、八戸在住。2016年、弁砂明さんと初めてお会いしたのは私の職場だった。お会いした瞬間、目を奪われた。柔らかいブロンズの髪、青い透き通った目。柔らかい物腰と仕草より品を感じた。電気や設備について、美しい日本語(少し八戸の「ハマ」のアクセントが入っている。)で分かりやすく説明をする。その姿から、背景にある彼の様々なドラマを感じたのだ。この人から広がるストーリー。そこからいろいろな人の元気や勇気に変わるのではないか。いろいろな事がみえるのではないか、と思った。そう、上手くは説明できないけれど、直感的に。
 弁砂明さんがアメリカからきたのは1996年の8月。三沢の基地内にて米軍の軍人として警察の仕事をするためだ。そして「八戸」の女性と出会い、恋に落ちて結婚した。その後2年弱で仕事を辞め、八戸で奥さんの家業に取り組むことになった。新しい挑戦だった。「できない」という言葉が嫌いな努力家の彼は、懸命にいろいろな事を吸収しようと、がむしゃらに取り組んだ。
 しかし、食べ物が合わない、考えなど伝えたいのに上手く日本語で伝えられない、様々な試練が重なった。183センチメートル、 90キロあった体が、60キロ台にまで落ちた。生命の危険を感じた。悩んだ末に2000年、家族でアメリカに戻る。
 2001年そこでまた大きな岐路がやってくる。
 仕事の出張のため家族で日本に行く前日、アメリカで9・11同時多発テロが起きた。その後しばらく日本に行くことはできなかった。9・11を機に空軍から予備軍としての期間延長の手紙が届く。以前軍人として働いていた彼は、現職でなくともアメリカから要請があれば、仕事に戻らなくてはならない。それは海外にも行かなくてはならない、戦争がある際は命もかけなくてはならない、ということでもある。奥さんと真剣に話し合いを重ねた。そして大きな決断をした。軍隊を退役し家族で「八戸」で生きる。2002年、家族で八戸に戻った。

 私はこうして、弁砂明さんを目の前に、話をお伺いしている。まさに「縁」というものを感じた。現在の弁砂明さんは、奥さんの家業で、電気工事士、設備士として日々八戸をメインに各地を飛び回っている。困っている人がいると、ついつい予算的に難しい仕事でも受けてしまう。「断ることができないんだよなぁ」と苦笑いがまたとてもチャーミングだ。子どもの学費のため、「お出かけ」を我慢して節約する、思春期とも向き合うパパでもある。高校生の娘から携帯に連絡が入ると、つい顔がほころんでしまう。

「八戸のいいところって何ですか?」
「たくさんあります、人もあたたかいし、何より自分を特別扱いせず、一員として受け入れてくれました。」「私は八戸市民の一員として接してほしい。」
 私は最初、八戸在住の外国人である弁砂明さん、という視点がどこかにあったのかもしれない。あぁ、でも何だか分かった。「弁砂明さん」は「八戸」と自然と一体化している。様々な視点や試練、経験を超えて、縁のあった八戸で「生きる」姿があまりに自然で美しいと思ったのだ。
 牧師とソーシャルワーカーの両親の元に生まれ、様々な状況の人々と触れ合ってきたアメリカ時代。いろいろな試練と経験、人々と出会い過ごす八戸。異なる世界の多様な価値観に触れながら培った寛容さや視野の広さが今の「弁砂明さん」を形成しているのだ。
弁砂明さんは、今日も「八戸」の一員として各地を回り、人々の安全を守る。

 ちなみに「弁砂明」という名前の漢字の由来は、姓名判断、仕事運、縁起、考えるものあらゆる全てを駆使して考えたのだそうだ。懸命に漢字を考える弁砂明さんの様子がイメージできて、何とも身近に感じて、あたたかい気持ちになった。



取材に応えてくれた方

荒沢弁砂明(あらさわべんじゃみん)/プロフィール
1975年アメリカ合衆国オハイオ州生まれ。平成10年から八戸市在住。平成18年日本国籍取得。消防設備士・電気工事士として八戸市内の会社に勤務。趣味はサッカー、ギター。好物は日本酒、日本そば。

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取材と文

小笠原彩子(おがさわらさいこ)/プロフィール
むつ市生まれ、弘前市出身。一児の母。歴史資料館、美術館、文学館に学芸員としての勤務経験を持つ。知る楽しさ、まちを元気にすることを大切に、執筆、展示、講演などにも取り組む。最近のテーマはワーク・ライフ・バランス。

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