No.71
消防団員は、今日もまちおこしの火付け役
南郷の沢代キュートンはとびきり元気な消防団。
地域の人たちを楽しませ、笑顔で元気づける。
素敵な場所は自分たちでつくる、という素敵なお話。
西国彦
取材・文 上野幸
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住民の高齢化に伴い人口減少が著しく進む八戸市南郷島守地区に、話題のまちおこしパフォーマンス集団がいる。八戸市南郷島守地区の消防団員、30代~40代の男たち10人で結成された、その名も「沢代キュートン」である。
彼らの活動は、地域の夏祭りのステージ出演からはじまり、公共施設でプロダンサーとステージを共にするなど幅広い。
元々は消防団員仲間の結婚式を祝うため、お笑い芸人によるパフォーマンスをオマージュしたものだが、そのクオリティの高さがじわじわと広がり、今では地域から一目置かれる存在となっている。
彼らのパフォーマンスは、チャイナ服や全身タイツ、海水パンツを着用し、手には模型の刀や銃、槍などの武器を持ち、ポップス曲に合わせてポーズを決めていくもの。
奇抜でユニークな装いに加えて、大の男の大人たちが真顔でポージングする様が、子どもから大人までを笑顔にさせる。年配の方にも「何をやっているか意味わからないけど面白い」と言わしめるほど、そのステージは不思議な魅力を醸し出す。
沢代キュートンにとっての大きな転機は、2011年から八戸市が主催する「南郷アートプロジェクト」への出演依頼だった。芸術のもつ視点や手法で地域を活性化することを目的としたアートイベントへのお誘いに「地元以外の人が、わざわざ自分たちが住む地域をもりあげようとしてくれる姿に、何か自分たちもひと肌脱がなければと思った」と、リーダーの西さんは振り返る。
連日、プロのダンサーから提示された課題テーマに沿って、パフォーマンスの流れを何日も練り続ける日々。しかし、本格的ダンスに関してはメンバー全員が初めての彼らにとって、イメージを動きに変える作業をはじめ本業の合間を縫って練習時間を確保するのも簡単ではなかった。
加えて完成形に近づいたかと思うと、よりよいステージを目指すため、度々入るプロダンサーからの振付の変更。それでもメンバーは「観る人が喜んでくれるなら」という思いの下、西さんの表現を借りて言うならば「ど素人のオッサンたちなり」に必死に食らいついた。
迎えた本番。自分たちのパフォーマンスに、地元の人たちの予想以上の喜ぶ姿に、自分達も満たされていることに気が付いた沢代キュートンたち。
誰かを喜ばせること、誰かの役に立つ喜びを知った時、沢代キュートンの活動目的に「まちおこし」の意識が加わった。
ここ数年、保育園や小・中学校の合併が続くなど、急速に人口減少が進む島守地区の中で、今、西さんが気に掛けるのは子ども達のこと。
自分たちが幼い頃に、大人たちが「相撲大会」や「運動会」など、たくさんイベントを企画してくれていたように、自分も今、企画する側にまわりたいと考えている。
自分たちの活動する姿をとおして子ども達には『田舎だから楽しい所がない』じゃなく『楽しい場所は自分達で創れる』というメッセージをも伝えていければと考えている。
昨年、屯所に、ふらっと一人の若者が現れた。実際の沢代キュートンの活動を見ていて自分も参加したくなったのだという。かくして、チーム創設以来初めて、20歳の新人がメンバーに加わった。
自分たちのパフォーマンスや活動の裏に込めた地元への熱い思いは、ちゃんと誰かの胸に飛び火していたことを、照れ笑いを浮かべつつ教えてくれた西さん。沢代キュートンが蒔いた火種は少しずつ、そして確実に広がりをみせている。
「まちおこし」とは、外に向かって発信することだけでもなく、人を呼び込むことだけに力を入れることでもなく、今、自分が住む地域の人と一緒に楽しんだり、共に交流することを積み重ねた先にあるものかもしれない。
これからも、パフォーマンスを求めてくれる人がいる限り、沢代キュートンは島守地区の先頭に立って、地域の人たちの胸に火をくべ続ける。その火はやがて未来を明るく照らしだす明かり。消防団員の彼らでも決して消すことはできない。
取材に応えてくれた方
西国彦(にしくにひこ)/プロフィール
1978年3月11日生まれ。八戸市南郷の島守育ち。南郷沢代の消防団員、沢代キュートンリーダー。趣味は、スポーツ、映画鑑賞、仲間と酒を呑むことなど。
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取材と文
上野幸(かみのみゆき)/プロフィール
2014年度より、デーリー東北新聞社の市民記者としてボランティアの立場から身近な話題をすくいあげ取材・執筆を行っている。執筆のモットーは、目に見えない、声にならない思いを汲み、読み手に温かい気持ちを届けること。1975年生まれの41歳。