No.50

競りは祭りのにぎわい

色とりどりの魚たちが、ところ狭しと並ぶ魚市場。
競り人たちの勇ましいかけ声が響き渡り空気をゆらす。
日々、その迫力ある祭りは繰り広げられる。

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野田好文
取材・文 中居亜希子

 「せりのかけごえいさましく」とは八戸郷土かるたの「せ」の読み札である。平成元年に誕生して以来、小学校や家庭で読み札をすべて覚えてしまうほど遊んだという方も大勢いることだろう。私もそのうちのひとりだ。しかしその「せり」はいったい、いつ、どこで行われているのか、はっきりとは知らなかった。

 八戸みなと漁協の野田さんとは早朝六時三十分、江陽にある第二魚市場の事務所で落ち合う約束をした。
 氷点下。朝日はまだ顔を出していない。澄んだ青と桃色をにじませた雲ひとつない空と、その色を忠実に映した静かな海。それを背景にくっきりと影をつくる夢の大橋や新湊地区の民家の群れが見える。その光景の美しさたるや!

 さっそく用意してきた長靴にはきかえ、案内してもらう。せりはもう始まっていた。場内にはすでに、箱に盛り上げられた魚がところ狭しと並んでいて、それらは良く晴れた日の穏やかな海の匂いがした。ガランガランと鐘を鳴らし、大声で何かを告げる人。ぞろぞろと集まる人々。その集団が発砲スチロールの箱の山の前で足を止める。ザルメが入った箱だ。ザルメとは春先のほんの短い時期にしか出回らない海藻だ。肉厚で柔らかなザルメは豚肉と煮るととても美味しい。
 集まった男性たちは、がなり立てるように、大声で歌うように、また、合いの手を入れるように、秘密の言語で商談を進める。間近で見ているのに何が起きているのかまったくわからないまま、どうやらザルメの売買は成立したらしい。あっという間のできごとだった。どうしよう。何もわからない。でも・・・すごい!圧倒的な迫力!まさに「せりの掛け声勇ましく」だ!面白い!

 楽しくて楽しくて吸い寄せられるように見入る。そのうちにそれぞれの帽子の色の違いに気付いた。尋ねると、黄色い帽子は「せり人」でそれぞれ役割があり四人一組でせりを仕切っている。青い帽子は仲買人。許可を得た業者しか参加できないらしい。あとの人たちは見物人だ。漁師や、仲買人から魚を買う小売業者や、これから魚を運ぶ運送業の人がせりを見守る。ちなみに何度聞いても理解不能なせり人の掛け声だが、じつはなんと普通の日本語なのだそうだ。

 見渡す限りに並べられた真鱈の木箱。たくさん積み重ねた鮫の箱。鮟鱇(あんこう)、エイ、蛸、ヒラメ・・・なじみ深い魚や珍しい魚が次々とせりにかけられていく。せりが終わると、木箱の間をくるくると器用にフォークリフトが走り回り、山と積まれた木箱をひょいと軽々持ち上げては、きっちりと正確にトラックの荷台へと積み込む。荷を満載したトラックは一台、また一台と、西へ東へと旅立っていく。その日、せりが終わり最後のトラックが出発する頃には、時計はすでに十時を回っていた。

 いつしかせり人たちの姿は見えなくなり、急にガランと広くなった港には「あーあーあー」と笑ううみねこの声と海を行き来する漁船のゴゴゴゴというエンジン音だけが響く。
 日はとっくに高いところまで昇り、気温も幾分緩んできたようだ。場内では足元に散らばった魚の屑をホースの水で丁寧に流し清める作業が始まっていた。

 「まぁだ、居だのがぁ」漁協の山本さんがにっこりと笑い、声をかけてくれた。岸壁に腰かけたまま未だに立ち上がれずにいる私を気にかけてくれたのだ。北寄貝を船から揚げる作業をしていた、先ほどまでのおっかない顔とは別人のような柔らかい笑顔だった。
 初めて見たせりは、勢いと賑わいに満ち溢れていた。その光景を何かに例えるなら「祭り」である。大海原へ船を出す漁師をねぎらい、海を敬い、命に感謝する祭りだ。胸がじわっと熱くなった。目の前には早春の海が広がっている。山本さんの穏やかな表情を見て、ふと思った。浜で働く人たちこそ海そのものなのだと。



取材に応えてくれた方

野田好文(のだたかふみ)/プロフィール
1956年生まれ。八戸みなと漁業協同組合業務部次長。組合員である漁師のため、魚好きの全ての人のために日々活動している。いかの水揚げ量日本一の八戸のこれからのスローガンとして「いかの美味しさ日本一八戸」を掲げている。穏やかな笑顔は市場を支える自信に溢れている。

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取材と文

中居亜希子(なかいあきこ)/プロフィール
40代。はっちインフォメーションのスタッフとして、はっちの玄関口を笑顔で彩っている。釣り・魚が大好きなので、今回のテーマを選んだとのこと。食べたものはたいがい「おいしい」か「すごくおいしい」に分類されます。

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