No.19

笑顔を思いうかべて

和菓子づくりにも三社大祭で使うバチづくりにも、
決して手を抜くことなく真摯に心を込めていく。
食べる人、使う人の喜ぶ顔が待っているかぎり。

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金田卓
取材・文 中野桃花

 八戸市の鍛冶町で百年以上続く和菓子屋さんがある。金田菓子店のご主人、金田卓さんは、和菓子を作りながら、三社大祭になくてはならない、太鼓のバチを作っている。

 金田さんのバチ作りは、三年前から既に始まっている。材料となる桐の木は、そのままだと重すぎて、バチにはあまり向いていない。そこで、三年間乾燥させることによって、バチの重さを三分の一にまで抑えられるという。大太鼓10本、小太鼓60本をたったの、2、3日で作ってしまうというから驚いた。和菓子屋の仕事と仕事の合間に作業するそうだ。バチを作るための道具も、自分で溶接して作ったもので、金田さん曰く「ホームセンターにも、こういうものはあったけど自分で作った道具の方がパワフルなんだよ。」という。バチの材料となる桐の木も、買ったものではなく、お祭り仲間の方からもらったもので、もともとはかつて嫁入り道具の代表格だった桐箪笥にするために植えてあったのだそうだ。そのいい材料を使って魂を込めてバチを作る。子どもの手の大きさや太鼓の音の響きを考えて、昔から変わらない太さにしている。そして、お祭りは、人と人とのつながりだと、改めて思った。
 金田さんは、百年以上続く和菓子屋の三代目だ。「金田菓子店」の名物は、三角の形をした草餅である。春になると期間限定で店頭に並ぶ。だが、なぜ三角という独特な形をしているのか。そう質問をすると、金田さんは子どものようにいたずらっぽい笑みを浮かべ、こう話した。
「本当はね、三角じゃないの。生地を伸ばして、あんこをそれにくるんで棒みたいにするでしょ。で、これを竹で作ったへらで上に転がしながら半分に切る。そうすると、三角のように見えるけど、本当は四角。見る方向によってそう見えるだけ。」
 まさか、四角形だったとは・・・。私は鍛冶町の草餅がどうして三角なのだろう。これは永遠の謎だと思っていた。こうしている間も、あの三角草餅が食べたいという気持ちをおさえられない。早く春にならないかな。

「和菓子作りでもバチ作りでも何でも、心を込めて作ること」が一番大事なのだと金田さんは語る。実際に材料の粉は自分の店で素から作るという本物志向だ。「同じ材料で作っても、その日の温度や湿度で変わり、できあがりが同じに見えても、全て違うんだよ。その一つ一つに愛情込めて大切に作ることが、いつまでも続けたいと思う原動力なんです。」
職人魂を良い意味で見せつけられ、私は胸が熱くなった。
 
 最後に、金田さんは三社大祭についてこのように話してくれた。
「山車づくりは、子どものときから居ないと長続きしない。あんたも来い、あんたも来いって。人のつながりなんだ。就職して東京に行っても、子どもの時にかだっていれば、戻って来てやれるんだ。本当に好きな人はそういうもんなんだ。」
バチ一本、草餅一個の素材に対する手を抜かない金田さんに対する信頼と、彼を巡る人々との強い絆が祭りを支えていることを知った。

取材に応えてくれた方

金田卓(かねたたかし)/プロフィール

1938年生まれ。新郷村出身。金田菓子店の三代目。菓子作りは長男と二人で、店番は妻が担当。毎朝4時過ぎには近所の上舘煎餅店へ立ち寄って、気が置けない仲間とともにてんぽせんべいを食べ、コーヒーを飲んで会話に花を咲かせると一日がスタートする。片町の朝市がなくなった今でも日課として続けている。

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取材と文

中野桃花(なかのももか)/プロフィール

八戸東高校で演劇部に所属してます。趣味は料理する事、食べる事。読書に、最近流行りのDIY。今現在悩んでいる事は、自分の作ったお菓子が美味しくてついつい食べ過ぎてしまうこと。


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