No.18

ご縁に恵まれて

変わらぬ味を作り続けることの難しさと信念。
それを教えてくれたのが鶴子まんじゅう。
人と人、そして幸せを引きつけるお菓子の物語。

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松田智司
取材・文 中野桃花

 「食べる時に粉がボロボロとこぼれる。それが鶴子まんじゅうだ。」と萬榮堂三代目の松田智司さんは自信に満ちた顔でそう言った。
 黒砂糖の蜜と南部地方でとれる小麦粉で生地を作った小判型のまんじゅうに、真っ白な米粉をまぶして作ったもの。これが鶴子まんじゅうである。
 櫛引八幡宮参道の入り口にある和菓子屋「萬榮堂」。皇室にも献上された八戸を代表する鶴子まんじゅうの元祖である。
 決して味を変えることがない鶴子まんじゅうだが、松田さんが修行先から帰ってきた平成元年、こんな事が起こった。何人かのお客さんから「息子さんが帰ってきてからまんじゅうの味が変わった。」という感想が寄せられたのである。「そう言われても、このころ私は鶴子まんじゅうには一切触らせてもらえず、別の作業をしていたんですよ。」お客様からの突然の意見に心から驚いたそうだ。お客さんは「息子が帰って来た」というウワサを聞いただけで味が変わると感じるものなのか、とお菓子の厳しさを感じた。
 松田さんが初めて鶴子まんじゅう作りに携わったのは、それから十数年が過ぎた平成18年。二代目がけがをして作業ができなくなってしまった時だ。まんじゅうに白い粉をつけるには大きなボウルに粉と糖蜜のついたまんじゅうを入れてガランガランと回さなければいけない。今まで見ているだけだった松田さんは、粉を均等につけることに悪戦苦闘したそうだ。
 さて、今となっては有名な萬榮堂だが、インターネットで宣伝はしていない。しかし、お客さんの口コミや書き込みが広まり、今では遠方のお客さんも少なくないという。
 萬榮堂といえば鶴子まんじゅうだが、他にも「八幡亀子」や「国宝合掌土偶人形焼」など、個性的な菓子が並ぶ。この人形焼はおそらく八戸で初めて紫芋餡を使ったもので「八戸の人にこういう餡もあるよ。」と知らせたくて作ったのだそうだ。
 松田さんは、小学校の地域学習に協力している。自分が人とのご縁に恵まれていると話す松田さんは、子どもたちにも人のつながりの大切さを少しでも伝えたいと協力しているそうだ。「いくら小学生といっても、怒る時は怒るよ。人の話を聞かなかったり騒いだりしたら危険だからね。」松田さんは、子どもたちにそう言ってから体験をさせるそうだ。
 しだいに皮にあんこをうまく包むことができない子、材料をこぼしてしまう子、一人ポツンと立っている子が出てくるという。松田さんは、そのような子どもたちの中へ入って一緒にお菓子を作る。すると、他の子たちが寄ってくる。そうなると子ども達はみな、最後には笑顔で帰っていくそうだ。松田さんは、みんなで作ることが一番楽しいのだと感じることが大切だと考えている。
 初代から親子三代で守ってきた萬榮堂だが、自分達だけの力で守ってきたわけではないと松田さんは言う。
 「お客さんの支えがあったからこそ、どんな危機に直面しても頑張ってこれたのだと思います。」松田さんは、両親から店を継ぐことについて何も言われなかった。しかし、ご近所さんやお客さんから「継がねばねんだよ。」と言われ、萬榮堂がなくなるという危機的状況は回避されたのだそうだ。
 取材していると、萬榮堂にはいろいろな縁があることがわかった。その中でも印象的だったのは、初代の話である。最初、初代は和菓子屋ではなく別の所で働いていたのだが、手先がとても器用だからもったいないと職場の人に言われ、和菓子の世界に入ったのだという。普通なら誉められて終わりのところだが、初代は今でいうヘッドハンティングされたのだ。これは技術だけでなく人望もあったからなのだろう。進路について日々考えている私にとってはとても興味深く、心に残るエピソードだった。
 もう一つある。松田さんが、知り合いの老舗菓子屋の工場に特別に入れてもらった時のことである。部屋に通された際、『まんじゅう地蔵』が飾られていた。菓子屋の工場長に聞いたところ、「この地蔵は幸せを呼ぶ」と言われたそうだ。その時松田さんは、自分自身が感じた幸せをお客様にも分けて差し上げたいと店に地蔵を置くことを決心した。萬榮堂にいる「幸せを呼ぶまんじゅう地蔵」は、知る人ぞ知るパワースポットにもなっている。今日も明日もまんじゅう地蔵は私達に微笑みかけてくれて、いろいろなご縁があることに気付かせてくれるのだろう。



取材に応えてくれた方

松田智司(まつたさとし)/プロフィール
1963年生まれ。八戸市八幡出身。平成25年全国和菓子協会第二回伝統和菓子職認定、平成28年八戸市卓越技能者として表彰される。大正10年創業の「元祖鶴子まんじゅう萬榮堂」があと数年で100年を迎えます。伝統の技を受け継ぎ伝統を守り、ますます飛躍していきたいと思います。

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取材と文

中野桃花(なかのももか)/プロフィール
八戸東高校で演劇部に所属してます。趣味は料理する事、食べる事。読書に、最近流行りのDIY。今現在悩んでいる事は、自分の作ったお菓子が美味しくてついつい食べ過ぎてしまうこと。

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